かぶきのおはなし  
  157.鰹は半分もらったよ  
 
「家主(やぬし)といえば親も同然、店子(たなこ)といえば子も同様」。 江戸時代における貧乏長屋の大家さんと店子の関係をさす言葉です。

「梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)」では、“髪結新三(かみゆいしんざ)”が「白子屋(しらこや)」という材木商の一人娘である“お熊(くま)”を誘拐して自分の長屋に監禁してしまいます。親元から身代金をせしめようという、昨今流行の営利誘拐事件を起こす訳です。

 
 
最初に地元のヤクザの親玉が身代金10両を持って、娘を取り返しに新三のところへ掛け合いに来るのですが、新三は100両を要求し、「親分風が気に喰わねえ ---- 」、「強い人だから返されねえ----」と言って追い返してしまいます。

ところが、次にやってきた強欲で老獪な家主“長兵衛”には、こてんぱんにやり込められ、身代金30両で娘を開放させられてしまうのです。そして手数料として半分の15両も巻き上げられてしまいます。「鰹は半分もらったよ」というのは、仲介手数料として、半分の15両をもらっていくよ、という謎掛けの言葉なのです。さらに家賃の滞納分2両を差し引いて、新三が受け取るのは13両、長兵衛は17両をせしめるという訳です。買ったばかりの初鰹も、中落ちの付いた片身を持っていかれてしまうのです。
鰹は半分もらったよ
 
  新三には上総(かずさ)無宿(むしゅく)の入墨者という弱みがあります。入墨者には店(長屋)を貸してはいけないという決まりがあった時代に、入墨者だと承知のうえで店を貸している家主長兵衛の魂胆には、新三より一枚上手の悪を感じます。

歌舞伎では、家主長兵衛が畳のうえに小判を1枚ずつ15枚並べ、「鰹は半分もらったよ」と言うのですが、その意味が新三には分からず目を白黒させる場面がとてもユーモラスに描かれています。

なお、現実には下町の貧乏長屋などで、現金の扱いに小判でやりとりすることはまず無かったそうで、実際は小指の爪先大の1分銀(いちぶぎん)が使用されていたそうです。よく現金の束を「切り餅(きりもち)」などといいますが、この「切り餅」一束は、1分銀100枚(=25両)を紙に包んだものです。
(江戸時代のお金については「164.江戸時代のお金」  「165.両替商」  「166.江戸時代の物価」に書いています)

 
   
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