156.初鰹 | ||||||
山口素堂(1642〜1716)の有名な句に「目に青葉 山ほととぎす はつ松魚(がつを)」というのがあります。初夏の風物を並べただけの、何の変哲もない句ですが、江戸時代の庶民感覚に訴えるものがあるのでしょう、素堂の名は知らなくても、この句だけは知っているという人が多いのではないでしょうか。山口素堂は江戸時代前期の俳人で、和歌や漢詩の素養もあり、茶道・能楽などの芸術にも親しんだという当時まれに見る文化人で、松尾芭蕉とも親交が深かったそうですが、この句ほどには知られていないというのが本当のところでしょう。 |
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河竹黙阿弥の「梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)」、通称「髪結新三(かみゆいしんざ)」という外題のお芝居です。黙阿弥の作品ですから、例によって主人公の"髪結新三"は上総無宿(かずさむしゅく)の入墨者という悪党ですが、芝居の内容そのものよりも、季節感に溢れた、江戸下町の裏長屋の様子が活き活きと描かれているのところが、この芝居の真骨頂なのです。 相長屋(あいながや)の"権兵衛"が、"新三"の弟分の"勝奴(かつやっこ)"に向かって「だいぶ ほととぎすの声を聞くが、まだ鰹の声は聞かねえようだ」と言うと、花道から「かっつを、かっつを!」と威勢良く叫ぶ魚売りが現れ、さらに朝湯帰りの"新三"が手拭い・浴衣姿で揚幕から登場します。 初鰹の値段は、三分です。1両の4分の3の値段ですからべらぼうに高いものですが、そこは「宵越しの銭は持たねぇ」という江戸っ子の"新三"ですから、躊躇することなく買い求めるのです。(この頃の1両を現在の貨幣価値に換算すると、多少の幅はありますが、約6万円です。するとこの初鰹1匹の値段は、4万円ということになります。) 弟分の"勝奴"が「こいつは 滅法(めっぽう) 新(しん)めえだ、中落ちを煮て 早く喰いてえ---」と言うせりふ。魚屋が鰹をおろし、頭を捨てようとすると"権兵衛"が「捨てるなら私に下さい」と言って、頭を貰い「これは有り難い、初鰹にありついた」と言って喜ぶ様など、見ていてとても気持ちの良い気分にさせてくれるお芝居なのです。 |
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