かぶきのおはなし  
  150.おうむ  
 

「おうむ」などと言うと、あの忌まわしいオウム心理教をすぐに連想してしまうのですが、ここでは歌舞伎の演出用語としての「おうむ」です。

多分、鳥の「鸚鵡(おうむ)」から来ている言葉だと思うのですが、主役級の役者が引っ込み(舞台から退場する)の前に何か特徴的な(あるいは恰好良い)仕草やせりふを言ったあとから、3枚目的な役の者がその仕草やせりふをそっくりに真似て客席を笑わせるというものです。そっくりに真似るということで、「鸚鵡(おうむ)」と言う訳です。


おうむ
 
  よく芝居を見ていると、この「おうむ」の演出は結構多いので、出くわすこともよくあると思いますが、以下に「菅原伝授手習鑑−寺子屋」での「おうむ」をご紹介します。

まずオリジナルは、松王丸の女房"千代"が武部源蔵の経営する寺子屋に子供の"小太郎"を預けた後(菅秀才の身代わりです)、ちょっと隣村まで用事で出掛けてくると言って、立ち去る場面です。

小太郎 「母様(かかさま)、私(わし)も一緒に行きたいわいのう。」
千代 「これはしたり、どうしたものじゃ。大きな形(なり)をしてあと追 うのか。御覧(ごろう)じませ、形は大きゅうても、まだ頑是(がん ぜ)がござりませぬ。」
戸浪 「そりゃ道理でござりまする。ドリャ、おばが良い物をやりましょう ぞや。モシ、ツイ戻ってやりなさんせいなア。」
千代 「はいはい、ツイちょっと一走り。さようなれば、いて参じましょう。」

千代が去った後、これを見ていた"涎(よだれ)くり"と千代の下男が滑稽な仕草で真似て客席を笑わすのです。

涎くり 「母様(かかさま)、私(わし)も一緒に行きたいわいのう。」
下男 「これはしたり、どうしたものじゃ。大きな形(なり)をしてあと追 うのか。御覧(ごろう)じませ、形は大きゅうても、まだ頑是(がん ぜ)がござりませぬ。」
涎くり 「そりゃお道理でござりまする。ドリャ、おばが良い物をやりましょ うぞや。モシ、ツイ戻ってやりなさんせいなア。」
下男 「はいはい、ツイちょっと一走り。さようなれば、いて参じまする。」

 
   
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