かぶきのおはなし  
  151.草木も眠る丑三つ時  
 
お芝居を見ていると、時刻の表現が「子の刻(ねのこく)」とか「午の刻(うまのこく)」というように十二支で表現されたりします。また「九つ」とか「四つ」というように数字で表現されたりすることもあって、いったい現代の1日を24時間とする時刻体系にあてはめると何時頃に当たるのか、現代人には直ぐには判別できません。

 
 
前者は、1日を12刻(1刻は2時間)として十二支を配当する表現法です。後者は、古代から宮廷の陰陽寮(おんみょうりょう)では1刻(2時間)毎に時を告げる鐘を鳴らしてきたのですが、その鐘を鳴らす数が時刻によって決まっていることから鳴らす数を時刻として表現している訳です。一覧表にすると次のようになります。
草木も眠る丑三つ時
 
 
23:00−1:00 子 九つ 真夜
1:00−3:00 丑 八つ 夜 丑の刻を4つに分けて3つめが丑三つ時(2:00−2:30)
3:00−5:00 寅 七つ 暁
5:00−7:00 卯 六つ 明 明け六つとは、午前6時ころ
7:00−9:00 辰 五つ 朝
9:00−11:00 巳 四つ 昼
11:00−13:00 午 九つ 真昼 12:00を正午、それ以前を午前、以後を午後という
13:00−15:00 未 八つ 昼 「おやつ」を食べる時間帯です
15:00−17:00 申 七つ 夕
17:00−19:00 酉 六つ 暮 暮れ六つとは、午後6時ころ
19:00−21:00 戌 五つ 宵
21:00−23:00 亥 四つ 夜

これを覚えておくと、お芝居を見たときにおおよその時間が分かって良いと思います。

ただここで一つコメントしておきますと、明け六つ(日の出)から暮れ六つ(日没)までを昼、暮れ六つから明け六つまでを夜と定め、昼夜をそれぞれ六等分して1日を12刻(とき)と定めている訳ですから、昼と夜の長さが等しい春分と秋分では、上記の表と一致する筈ですが、それ以外には正確にいえば一致しないということになるのです。

もう少し具体的にいうと、例えば夏至の日だと日の出が午前4時頃で日の入りが午後7時過ぎですから日中の長さは、15時間半ぐらいになります。これを六等分すると1刻は2.6時間くらいになるのです。反対に冬至の頃の昼の1刻は、1.8時間くらいになってしまうのです(夜の1刻はこの反対となる)。

要するに、江戸時代の1刻は季節によって伸び縮みしているということです。専門家は、これを「不定時法(ふていじほう)」と呼んでいます。でも、あまり深く考えると混乱してきそうですのでやめましょう。江戸っ子は大雑把だったのです。

小学唱歌に「お江戸日本橋 七つ立ち(ななつだち) 初の旅 ----」という詞があります。これから東海道を西へ向かう旅に出るのですが、出発点である江戸日本橋を「七つ」(午前4時頃)に出発するという意です。昔の人は早起きだったことが良く分かります。

余談ですが、古代中国の歴代皇帝も朝は早起きで、政治の重要な事項は早朝の会議ですべて決定されたそうです。ここから君主が政治をとり行う場所を「朝廷」と呼ぶようになったということです。

 
   
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