かぶきのおはなし  
  83.涎くり  
 

歌舞伎の役どころで「涎(よだれ)くり」というのがあります。涎を垂らす(あるいは青ばなを垂らす)などというのは、下々の子供のすることですが、この子供がする役を、大の大人が演じて、やや痴呆がかった滑稽味を出すという演出効果を狙ったもので、こうした役どころを「涎くり」と呼んでいます。要するに、オトナが演じる子供役のことです。

「寺小屋」でも、山家(やまが)育ちの子供たちに混じって、この「涎くり」が登場しますが、普通は名題下の大部屋俳優が演じるのが常ですが、たまに名優(あるいは人気役者)がこれを勤めることがあります。人気役者が、端役に出ることを歌舞伎の世界では「ごちそう」と呼んでいます。

涎くり
 
 
現5世中村勘九郎の父、戦後歌舞伎の名優の一人と言われた故17世中村勘三郎(なかむらかんざぶろう)(本名波野聖司、1909−1988)も「寺小屋」で「涎くり」の役を勤めたことがあるそうです。そして、ここから先は本当かどうかどうも怪しいのですが、この「涎くり」の役で出演中に女の子が生まれたので、その女の子の名前を「波野久里子」と名付けたという話です。


 
   
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