かぶきのおはなし  
  82.連理引き  
 
「連理(れんり)」あるいは「連理の枝」と言う言葉を聞いたことがありますか?別々に地面から生えた2本の木が、幹や枝の一部が途中でくっついて木目が通じあっているという、植物学的には何らかの偶然の力が作用して1本の木のようにくっついた奇形なのでしょうが、男女の仲が睦まじいことや夫婦の縁が深くて永遠であることを表現する言葉です。

中国の詩人白居易の「長恨歌」に、「天に在りては比翼(ひよく)の鳥となり、地に在りては連理の枝と成らん----」とありますが、玄宗皇帝と楊貴妃の2人の仲を詠っていることは申すまでもありません。

歌舞伎の演技・演出用語に「連理引き(れんりびき)」というのがあるのですが、こちらの方は仲睦まじい男女どころか、一方は幽霊・妖怪・怨霊の類いで、一方が生きた人間ですから意味は、まったく違います。

「連理引き」というのは、(花道を)逃げていく(恨みのある)人間を本舞台から幽霊や怨霊などが、背後から襟首や手首などを掴んだ形で、自分の方へ引き寄せる時に見せる演技・演出のことをいうのです。

 
 
幽霊や怨霊が手を伸ばして引っ張る仕草をすると、人間の方は襟首や手を掴まれ引き戻される形で、足をバタバタと大きく上げたり、手を後ろに引いたりして後ずさりします。このときツケが入り、大ドロ(下座の大太鼓の打つドロドロという音)になるのが普通です。そして人間が持っていた傘がお猪口の形になったり、一旦は揚幕の向こうに入った後、また舞台まで引き戻されるというパターンが多いようです。

「東海道四谷怪談」の"お岩"と"民谷伊右衛門(たみやいえもん)"、「色彩間苅豆(いろもようちょっとかりまめ)」の"累"(かさね)と"与右衛門(よえもん)"などが代表的な「連理引き」の例です。

恨みの凄まじさを表現する演技・演出です。
連理引き
 
   
back おはなしメニュー next