かぶきのおはなし  
  84.道成寺物(どうじょうじもの)  
 
歌舞伎舞踊のジャンルの1つに「道成寺物」があります。長唄の名曲舞踊である「京鹿子娘道成寺(きょうかのこむすめどうじょうじ)」に代表されるあの「道成寺」ですが、原典は能の「道成寺」から出発したものです。

「道成寺」というのは、和歌山県日高郡川辺町にある天台宗の古いお寺ですが、安珍・清姫(あんちんきよひめ)の伝説で有名です。大宝元年(701)、文武天皇の勅願により創建された名刹であると歴史の本に書いてありました。

 
 
安珍・清姫伝説というのは、大雑把に言うと安珍に恋をした清姫が、自分を裏切った安珍を蛇体となって追いかけ、道成寺の鐘の中に逃げ隠れた安珍を鐘もろとも焼き殺す、というものです。この伝説も出所によって少しずつ違うようですが、女が男への果たされぬ恋の情念を怨んで、激しい嫉妬心を燃焼させるというのが主題であることでは一致しています。

男への愛情が激しい余り、裏切られたと知った時の憎悪はより一層激しいものになるという女性の普遍的な?気持ちは時代を超えて、能、謡曲、浄瑠璃、舞踊、歌舞伎などに移入され、様々に形を変えて脚色され、こんにち「道成寺物」という1系統を成すまでになったものです。
道成寺物
 
  舞踊では白拍子(しらびょうし)"花子"(実は清姫の蛇身)が踊る「京鹿子娘道成寺」が最も有名ですが、白拍子に化けた狂言師が踊る「奴道成寺」、花子と狂言師の2人で踊る「男女(めおと)道成寺」、男女の執念が1人に合体して怨みを述べる「双面(ふたおもて)道成寺」など沢山のバリエーションがあります。

歌舞伎狂言(劇という意)では、「日高川入相花王(ひだかがわいりあいざくら)」があります。

「道成寺物」のキーワードは、「怨念」、「蛇」、「鐘」の3つです。

 
   
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