名古屋 |
「刀の鐺(こじり)、捉(とら)えし御方(おんかた)コリャ何とめさ る」 |
不破 |
「これや此方(こなた)へ御免なされ、身はこの廓(さと)へ通いつめ、 当世(とうせ)陀々羅大尽(だだらだいじん)と、人に知られて闇の
夜に、吉原ばかり月夜かな。ことに夜桜まばゆくも、咲き揃うたる仲之町、この往還を避(よ)けずして、何で身どもがこの鞘へ、武士の 鞘当、挨拶さっしゃい」 |
名古屋 |
「そりゃこの方より申すこと、大道広き往還を、我が物顔の六法は、よしや男の丹前姿、模様も雲に稲妻は、もしや噂のそこもとは」 |
不破 |
「今この廓(さと)に隠れなき、稲妻組の関大尽、その名も高き富士筑波、心にたがえば闇雲に、抜けば玉ちる剣(つるぎ)の稲妻」 |
名古屋 |
「その模様とは事変わり、雨の降る夜も風の夜も、通い廓(くるわ)の上林(かんばやし)、夜の契りも絶えずして、明くるわびしき葛城(か
つらぎ)と、しっぽり濡れし濡れ燕、無法無体の行きちがい、避けて 通すも恋の道」 |
不破 |
「そこをそのまま通さぬが、稲妻組の伊達衆の意地ずく」 |
名古屋 |
「稲妻組の頭分(かしらぶん)、関大尽とおいやれど、実は不破の伴左衛門、包むとすれど物腰恰好」
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不破 |
「その声音(こわね)こそ覚えある。昔男の光る君、しかし刃金(はがね)は生ぬるき、名古屋山三と見たはひが目か」 |
名古屋 |
「面(おもて)を包む目関笠、取って貴殿の御面相(ごめんそう)」 |
不破 |
「痩(や)せ浪人のこなたの面体(めんてい)、まずその笠を」 |
名古屋 |
「貴殿の笠も」 |
不破 |
「いざ」 |
名古屋 |
「いざ」 |
両者 |
「いざ」 |