かぶきのおはなし  
  143.四天王物  
 
歴史の中には、木曽義仲の「四天王(してんのう)」だとか、徳川家康の「四天王」だとか武勲を立てた家来、大黒柱的な家来を尊称してそう呼ぶことが多いのですが、ここでは歌舞伎の中に「四天王物」という1ジャンルを形成するほど数多く登場する源頼光(みなもとよりみつ)の「四天王」をご紹介します。
(頼光は、らいこう、とも読みます。)

源頼光(948−1021)は平安中期に実在した武将なのですが、政治的には存在感が薄く、歌舞伎では専らその伝説的な武勇伝で語り継がれている存在です。そして家来の「四天王」も実在したのはどうも間違いないようですが、残された事蹟は何れも眉つばものの武勇伝ばかりなのです。でも歌舞伎にとっては又とない題材として多くの「四天王物」が生まれましたが、いずれも鬼女か妖怪変化が登場し、それを退治するというパターンです。

「四天王」の名前を挙げると、坂田金時(さかたのきんとき)、卜部季武(うらべすえたけ)、渡辺綱(わたなべつな)、碓井貞光(うすいさだみつ)の4名です。(渡辺綱は、渡辺源氏綱、わたなべげんじつな、ともいいます。)

武勇伝としては以下のようなものが残されています。

1. 丹後の国、大江山に棲む酒呑童子(しゅてんどうじ)を退治した。
2. 葛城山に棲む土蜘(つちぐも)を退治した。
3. 市原野で鬼同丸(きどうまる)を退治した。
4. 京都羅生門に棲む鬼女を退治した。
5. 京都愛宕山に棲む鬼女を一条戻橋(もどりばし)で退治した。

これらの伝説をもとに、松羽目物(まつばめもの)の名作「土蜘」や「茨木(いばらき)」を始め多くの「四天王物」が生まれたのですが、いずれも鬼女か妖怪変化が現れ、源頼光や「四天王」がこれを退治するという筋書きになっているのです。
 
 

なお、「四天王」の一人坂田金時とは、あの足柄山の金太郎のことです。鉞(まさかり)を担いで熊に乗った姿で有名な金太郎のことで、五月人形や童謡などで親しまれています。歌舞伎では「嫗山老(こもちやまんば)」の"八重桐(やえぎり)"が生んだ子ということになっています。また歌舞伎での幼名は"怪童丸(かいどうまる)"です。
四天王物
 
 
余談ですが、この坂田金時の子が金平(きんぴら)です。親譲りで豪勇無双の者ということになっています。今でも強いものの代名詞として、この金平(きんぴら)という名前を冠して使いますが、それは金太郎の子の名前なのです。

私たちに最も馴染みのあるのが、金平牛蒡(きんぴらごぼう)でしょうか。繊切りにした牛蒡を胡麻油で炒め、唐辛子を加えて醤油と砂糖で味付けしたものですが、昔から強精作用があると考えられて、怪力金平の名前が付けられたといいます。他にも、金平足袋(極めて丈夫に出来た足袋)、金平糊(にかわを混ぜてねばりけを強くしたのり)、金平人形(武勇伝ものの人形)など、強いもの、立派なもの、丈夫なものを表わす言葉として使われています。

 
   
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