かぶきのおはなし  
  142.石持ち(こくもち)  
 
歌舞伎の衣装用語です。着物の定紋(じょうもん)を描くべき部分を、(餅のように)円く白抜きにして染め上げた衣装のことです。分かり易く言えば紋の無い着物です。

歌舞伎では、この「石持ち」は、一般的には身分の低い者の衣装として用いられます。あるいは、武士などが何らかの事情があって、町人姿に身をやつしている場合などにも用いられるようです。

 
 
最も典型的なのは、時代物の世話女房が着る「石持ち」で、地色は鳶色(とびいろ、=茶褐色)、栗梅(赤味の勝った栗皮色)、海老茶(黒味を帯びた赤茶色)などと言いますが、要するに茶系で柄は無地というのがお決まりの型です。

「傾城反魂香(けいせいはんごんこう)」の"お徳"、「仮名手本忠臣蔵−5段目」の"お軽"、「菅原伝授手習鑑−寺小屋」の"戸浪(となみ)"など皆そうです。
石持ち(こくもち)
 
 
田舎娘の衣装にも「石持ち」が用いられることがあるのですが、この場合の地色は萌葱(もえぎ、葱の萌えでる色、緑に近い)で、様式化された裾模様の着物になっているようです。「妹背山婦女庭訓」で、あの「疑着の相」を顕わした"お三輪"は、萌葱縮緬の「石持ち」に十六武蔵(じゅうろくむさし)の裾模様という美しい衣装ですし、「平家女護島(へいけにょごがしま)」の"千鳥"も海女であることを連想させる裾模様のついた萌葱の「石持ち」です。

また、男の場合では、歳をとっていれば茶色か薄鼠色、若ければ浅葱(あさぎ、水色、うすあお)となるのが普通です。

なお、黒田官兵衛を祖とする九州福岡黒田藩(黒田武士で有名です)は、この「石持ち」が家紋となっています。

言い忘れましたが、"お三輪"の着物の裾模様「十六武蔵」というのは、江戸時代に庶民の間に流行した遊戯の名前だそうです。オセロのような(オセロとは違いますが)盤面に1個の親石と16個の子石を並べて、親子で勝負を競うゲームだそうですが、私は"お三輪"の衣装にそれを見るだけで、本物は見たことはありません。

 
   
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