かぶきのおはなし  
  139.いやじゃ姫  
 
歌舞伎に登場するお姫様は、通常真っ赤な衣装に身を包んでいることから「赤姫」と呼ばれるということは、以前にお話しました。

その「赤姫」は、普通は腕を組んでじっと座っているばかりで、特段せりふもなく、目立った仕草もないというのが通り相場であることから「しびれ姫」とも役者仲間では呼ばれているのだそうです。

ところが、その「赤姫」のなかで別名を「いやじゃ姫」と呼ばれているお姫様があります。「恋女房染分手綱(こいにょうぼうそめわけたずな)」、通称「重の井(しげのい)子別れ」と呼ばれている作品に登場する"調姫(しらべひめ)"です。

京都、由留木(ゆるぎ)家の息女、調姫は東国の入間(いるま)家へ嫁入りの為、江戸へ向かって旅立ったのですが、水口宿(みなくちじゅく、滋賀県にあります)迄来た時突然に「東(あずま)へ行くのは、いやじゃ、いやじゃ、いやじゃわいのう」と駄々を捏(こ)ねるのです。

 
 
いやじゃ姫 この調姫、一体何回「いやじゃ、いやじゃ」を言うのかというと数えてみないと分かりませんが、兎に角「いやじゃ、いやじゃ」の一点張り。「なんの東がよい所か、いやじゃ、いやじゃ」、「いやじゃ、いやじゃ、どうしても東へ行くのは、いやじゃ、いやじゃ」 --------。

お芝居は「いやじゃ姫」とは関係なく、この調姫の乳母"重の井"と"三吉(さんきち)"親子の生き別れが見所なのですが、それにしても面白いお姫様です。
 
 
また、この芝居で入間家の家老"本田弥惣左衛門(ほんだやそざえもん)"は、猩々緋(しょうじょうひ)の道中羽織を着て登場するので、俗に「赤じじい」と呼ばれています。

 
   
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