かぶきのおはなし  
  136.小芝居  
 
朝起きて新聞の朝刊を読んでいたら「小芝居(こしばい)」が40年振りに復活し、その第1弾として1月31日に新潟市民芸術文化会館で「老後の政岡(ろうごのまさおか)」と「曾我物語−中村の場」の2狂言が上演された、と出ていました。(2000年2月6日、日本経済新聞)

 
 
新聞記事によれば、「小芝居」とは、「国定忠治」や「瞼の母」などの大衆演劇とは違ってあくまで歌舞伎なのですが、団十郎や菊五郎といった名門の役者が出る「大歌舞伎」に対して、それ以外の役者が出るのが「小芝居」ということです。実際にこの「小芝居」で主役を勤めたのは、中央の歌舞伎では脇役しか廻ってこない中村歌女之丞(なかむらかめのじょう)らの大部屋俳優だったそうです。大部屋俳優の役者さん達にすれば、普段は決して演ずることのない大役に大張り切りだったそうです。
小芝居
 
  地方の歌舞伎は、「地芝居」といって、栃木県烏山市(からすやまし)の山揚げ(やまあげ)歌舞伎、埼玉県秩父市の山車(だし)歌舞伎、千葉県香取郡の伊能歌舞伎など現代にも江戸時代からの伝統が残っているものは全国に数あるのですが、これらの「地芝居」は、主に土地の農民・若衆などが俄役者(にわかやくしゃ)になって演じられるもので、「小芝居」とは少し違うようです。

さてこの「小芝居」の魅力は、これも新聞記事によれば、入場料が大歌舞伎の10分の1という誰でも気楽に楽しめる値段に設定出来るということと、大歌舞伎の有名狂言をパロディーにしたり、後日談にしたりといった独自の演目を発掘・上演出来るところにあるということです。

この日の二つの演目のうち「老後の政岡」はあの有名な「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」の"政岡(まさおか)"の老後を描いたもので、60歳を過ぎた乳母・政岡がかって自分の子"千松(せんまつ)"を犠牲にして命を助けた若君"伊達綱村(だてつなむら)"を訪ねてくるという筋書きだそうです。また「曾我物語−中村の場」は、曾我十郎・五郎による仇討ちの1日前を描いたもので、後日談ならぬ前日談だそうです。

機会があれば、「小芝居」というのも見てみたいものです。

余談ですが、地方巡業とか、地方公演に出かけることをよく「どさ回り」などと申します。歌舞伎の隠語です。この語源には沢山の説がありますが、そのうち(まゆつばですが)面白いのをご紹介します。まず第1は「佐渡回り」を逆に「ドサ回り」と呼んだというもの。江戸時代では賭博の現行犯は「佐渡へ島送り」というのが御定法だったそうで、博徒仲間ではこれを逆さに「ドサ回り」と隠語で使っていたのを歌舞伎界が取り入れたという説です。現代でも警察による家宅捜索のことを「ガサ」とか「ガサが入る」とか言いますが、これは「捜す」というのを逆にして「ガサ」と呼んでいるだけです。

第2の説は、「ドサァ言葉」を使う地方(東北かな)にも出かけるから、第3は「土砂降り」になると公演が中止になるようなお粗末な地方小屋へ行くから、第4は「土座(ドザ)」で見る芝居興行となるから--- 等々です。

 
   
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