かぶきのおはなし  
  135.二重(にじゅう)  
 
歌舞伎の大道具用語に「二重」というものがあります。「二重」というのは、舞台の床と平行して、もう一段高い土手だとか、屋内の床(畳)面だとか、山などの土台を作る台のことです。

分かり易く言えば、往来(おうらい、道路)の場面であれば、舞台の床が道になって単一でフラットな構造ですが、屋内であれば、土間である舞台の床と人間が起居する畳(あるいは床)の面(の高さ)が二重構造になっているから「二重」なのです。

よく、芝居の脚本などを読むと舞台場面の説明で「高足(たかあし)の二重、----」などと書いてありますが、このことです。

 
 
二重 それで、この「二重」ですが、舞台床面からの高さによって「常足(つねあし)」(1尺4寸=42cm)、「中高(ちゅうだか)」(2尺1寸=63cm)、「高足」(2尺8寸=84cm)と7寸(=21cm)刻みに出来ているそうです。こうしておくと組み立てる場合に非常に便利で、他の場面への転用が容易になるからだそうです。
 
  一般的には、時代物の御殿や陣屋などは「高足」で作られるのが普通で、「妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)」の御殿の場、「義経千本桜」の川連法眼館(かわづらほうげんやかた)の場、「熊谷陣屋(くまがいじんや)」の陣屋の場などみなこの「高足の二重」です。

一方「常足の二重」は、世話物などの町屋などに使われます。「青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)」の浜松屋の場など、世話物では殆どが「常足の二重」になっております。

歌舞伎の舞台では、2階建ての家屋内の1階と2階を同時に表現するのに苦労をしているのが現状です。2階にいる役者の顔が1階の手水鉢(ちょうずばち)の水面に写るとか、2階で窓の手すりに寄りかかり、鏡を手に持って上へあげ、覗(のぞ)いていたら1階の様子がその鏡に写るとかの演出があるのですが、それが劇の進行上重要な意味を持っているだけに、この表現方法に苦労する訳です。

仕方なしに1階を下手に「常足の二重」で作り、2階を上手に「高足の二重」で作るという段差で表現しています。「双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)」の引窓(ひきまど)の場がこれです(前者の例です)。1階と2階が垂直ではなく斜めの線で結ばれ、これで勘弁してもらいたいということです。

「仮名手本忠臣蔵」7段目、祇園一力茶屋(ぎおんいちりきちゃや)の場では、下手の1階が「高足の二重」なので、上手の2階は「大高の二重」(多分、4尺2寸=126cm)となっています(後者の例です)。これも段差で表現している訳です。

 
   
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