かぶきのおはなし  
  128.漏斗  
 
「漏斗(じょうご)」という言葉を、広辞苑で調べると次のように出ています。 「形状が朝顔の花に似、その筒口を瓶、徳利、壷などの口にはめ、上部から酒、醤油、油などの液体を注ぎ入れるのに用いる器具。また大型で、穀類、茶などを移すのに用いるものもある。ろうと。」

歌舞伎の衣装のなかにも「漏斗」と呼ばれる面白い衣装があります。どんな役の衣装かと言うと、幽霊の衣装なのです。

 
 
漏斗 形状が「ろうと」に似ていることから付けられた名前でしょうが、長く引いた裾の先が漏斗のようにすぼまって、足の無い幽霊らしく見えるように工夫されているのです。私は見たことがないのですが、円山応挙(まるやまおうきょ)(1733−1795)の幽霊の絵がヒントになって考案された衣装だそうです。客席から見るとまるで足の無い裾の先端が、闇の中に消えていくように見える訳です。(「応挙の幽霊」という落語は何度も聞いたことがあります。)

「東海道四谷怪談」蛇山庵室の場では、「提灯抜け」の仕掛けでお岩の幽霊が提灯の中から出てきた後、裾の先端がすぼまった「漏斗」の衣装が全部顕れるまで上にあがります。まるで宙に浮いているようです。背中を吊るか、垂直に上がる撞木(しゅもく)につかまっているか、どちらかの仕掛けで宙吊りのような形になるのです。
 
 
「天竺徳兵衛韓噺(てんじくとくべえいこくばなし)」でも、女房に殺された"小平次(こへいじ)"が幽霊になって出るのですが、やはりこの「漏斗」の衣装です。

「東海道四谷怪談」といい「天竺徳兵衛韓噺」といい、何れも4世鶴屋南北の作品です。黙阿弥が白浪作者なら南北は怪談作者と言えるでしょう。

 
   
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