116.伝馬町大牢 | ||||||
舞台全体が、江戸は伝馬町の牢屋の中、という珍しいお芝居をご紹介します。 河竹黙阿弥の「四千両小判梅葉(しせんりょうこばんのうめのは)」という、お芝居です。 筋書きを簡単に述べますと、浪人"藤岡藤十郎(ふじおかとうじゅうろう)"と元藤岡家の中間だった野州無宿"富蔵(とみぞう)"の二人が、こともあろうに江戸城の御金蔵から4千両の大金を盗むのです。この盗みは成功したのですが、やがて捕らえられ伝馬町の牢屋に入れられます。そして最後は、市中引き回しの上、磔の刑に処せられるというお話です。 この芝居の6段目が「伝馬町大牢の場」で、舞台全体が板敷きの牢屋の中になっている訳です。「小忌衣」は、歌舞伎界の人々の想像の産物だった訳ですが、この「伝馬町大牢の場」は、黙阿弥が経験者?に取材をして実物そっくりに作り上げた舞台だということです。 この芝居の初演は明治18年ですが、初演当時大評判になったそうです。なにしろ普通の人間には想像もつかない牢屋という隔離された世界が余すところなく描写されている?からです。私も初めてこの芝居を見たときは、物珍しさに感動した記憶があります。 |
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富蔵が、二番役(牢名主に次いでNO.2)になっていて、そのきびきびした態度、新たな入牢者へ「しゃくり」という牢内の掟(おきて)を聞かせるそのせりふ、入牢者を叩きのめす「きめ板」の扱い方など、景色・せりふ・仕草などどれをとっても珍しくないものはありません。そういえば、藤岡藤十郎と富蔵の二人がいよいよ磔の刑に処せられる為、引かれていく時牢内から一斉に読経(どきょう)の声が起こるのも面白く、総てに見所のあるお芝居です。 入牢者は、本来は禁じられているのですが、やはり「命のつる」(お金のことです)を持ってくるのがこれもこの世界のしきたりのようで、一束(銭1貫6百文)しか持ってこなかった新参者を富蔵が「しみったれた野郎だな」と罵り、てめえのような奴はどうせ「ろくな泥棒もしやあしめえ」と怒るくだりなどは、まさに地獄の沙汰も金次第といったところでしょうか。 このほかにも牢内は娑婆(しゃば)と違って、帯を「長物(ながもの)」、ふんどしを「細物(ほそもの)」と呼ぶことを、富蔵が新参者に教える場面、細物で首を括(くく)ったやつがでたら「てめえが下手人だぞ」と凄む場面なども物珍しく、興味は尽きません。 余談ですが、藤十郎と富蔵が江戸城の御金蔵から盗みだした4千両の重さは一体どのくらいなのでしょう。小判1枚が1両でその重さは約18gだということです。すると千両の重さは、18gx1000=18kgということになります。箱自身の重さもあることでしょうから、1千両が詰まった千両箱は約20kgとして、それが4個ですから約80kgという計算になり、大人2人ですから何とか運べる重さだということです。 (注)銭1貫6百文というのは、現代のお金に換算すると、32,000円程度になります。 |
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