かぶきのおはなし  
  115.小忌衣  
 
歌舞伎の衣装に「小忌衣(おみごろも)」というものがあります。
時代物で貴族だとか殿様などの身分の高い人、高貴な人が着る衣装ですが、この「小忌衣」を見ると如何に歌舞伎の時代考証がいい加減かということが分かります。
日本史上においてこの「小忌衣」を着用したという事実は、どの時代、どの地方、どの身分をとっても絶対にありません。歴史を勉強する為に歌舞伎を見るという考え方は、絶対に捨て去るべきです。

よくよく考えると無理もないことです。町人以下、河原乞食並みの身分である歌舞伎の世界の人々にとって、貴人達がどんな服装をしているか見たこともないのです。テレビのない時代です。衣装だけでなく顔も御殿の内の様子も総て情報がありません。ですから想像を逞しくして形や色を決めるしかなかったのです。

 
 
実際の「小忌衣」ですが、当時の人々の想像の産物です。
私などは、歌舞伎で初めてこの「小忌衣」の衣装を見た時、切支丹のバテレンが持ち込んだ衣装を真似たのかと思ったくらいです。
襟の部分がエリマキトカゲのようにビラビラと立っていて全体に金銀をちりばめたような派手で滑稽な衣装です。ケマン結びとでも言うのでしょうか、金糸銀糸で編んだケマン紐を使って羽織の紐の代わりにしているようです。

皆さんもこのグロテスクな衣装、一度ご覧になって下さい。きっと何だこりゃぁ、とびっくりなさることでしょう。

小忌衣
 
  この「小忌衣」ですが、「義経千本桜−川連法眼館(かわづらほうげんやかた)」では"源義経"が着ています。「祇園祭礼信仰記」では"松永大膳"が、「時今也桔梗旗揚(ときはいまききょうのはたあげ)」では"小田春永"が着ています。「蜘蛛の糸」の"源頼光"もそうです。どの貴人もギンギラギンの「小忌衣」です。

 
   
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