かぶきのおはなし  
  113.三婆  
 
歌舞伎のお姫様役(赤姫)のうち特に「三姫」という大役があるならば、老女役の難役3人を選んだのが「三婆(さんばばあ)」です。

その「三婆」を年代順にご紹介します。

1人目は、「菅原伝授手習鑑−道明寺(どうみょうじ)」の"覚寿(かくじゅ)"です。覚寿という婆は、芝居では"菅丞相(かんしょうじょう)"の伯母ということになっています。菅丞相左遷の口実の原因を作った、菅丞相の娘"苅屋姫(かりやひめ)"が、菅丞相に一目逢ってお詫びをしたいと訪ねてきても、これを許さずに涙ながらに杖を持って折檻するという芯の強さを持った婆です。

2人目は、「本朝廿四孝−筍掘り(たけのこほり)」の"越路(こしじ)"です。越路はこの芝居では武田の軍師"山本勘助(やまもとかんすけ)"と上杉の軍師"直江山城介(なおえやましろのすけ)"の母という設定です。(歌舞伎では何故か、武田・上杉の両軍師が兄弟ということになっているのです。)そして上杉に味方する為、息子の勘助に腹を切れと迫ります。厳しい婆です。

 
 
3人目は、「盛綱陣屋(もりつなじんや)」の"微妙(みみょう)"です。微妙という婆も息子(盛綱と高綱)が敵味方になって戦うことを余儀なくされているのですが、高綱の子供"小四郎"が捕らわれて来た時、盛綱の依頼でこの孫に切腹を迫るのです。これも凛とした気迫を感じさせる婆です。

流石に「三婆」と言われるだけあって、男勝りの強さの中にも、気品と数奇な運命を背負った一族への思いやりを感じさせる必要のある女形の難役ばかりです。

三婆
 
   
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