107.狐の恩返し | ||||||
日本の民話に「鶴の恩返し」というのがあることは、皆さんよくご存知のことと思います。木下順二の「夕鶴」のモデルとなった民話です。 歌舞伎にも、助けた動物が人間に化けて、恩返しをするというお芝居があるのですが、歌舞伎の場合は鶴ではなくて狐なのです。 そのお芝居の正式な外題は「芦屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)」と言うのですが、通称は「葛の葉(くずのは)」で通っています。 恋人"榊の前"(さかきのまえ)を亡くした"阿倍保名(あべのやすな)"は、失意のあまり半狂乱となっていますが、榊の前と瓜二つの"葛の葉(くずのは)"に出会って正気に戻り将来を約束します。この保名が信太(しのだ)の森で悪人に追われた白狐を助けるのです。 保名は白狐が化けた葛の葉と結婚し、子供をもうけて幸せな6年間を送るのですが、やがて本物の葛の葉が現われたので、狐は愛する夫と子供を残し、信太の森に姿を消すというお話です。 葛の葉に化けた狐が、別れに臨んで歌を書き残すのですが、有名な歌なのでご紹介します。 「恋しくば 尋ねきてみよ 和泉なる 信太の森の うらみ葛の葉」。 信太の森は和泉の国といいますから、今の大阪府南部にあたります。 さてこのお芝居の見所ですが、勿論、しんみりと親子の情愛の滲んだ「子別れ」ということでしょうが、実は、大障子に「恋しくば----」の歌を毛筆で書き残すときに、狐の本性を顕わし「曲書き」というケレンを見せるのです。 |
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