かぶきのおはなし  
  104.三角の雪  
 
歌舞伎で雪が降るシーンというのは、結構沢山あります。あるいは、雪が降り積もった場面というのも沢山あります。純白の銀世界です。

「恋飛脚大和往来−新口村」では、死出の旅に向かう梅川と忠兵衛に雪は容赦なく降りそそぎます。見ていてせつなくなる場面です。ふたりの足は、何故か裸足というのも観客の深い悲しみを誘うという意味で、優れた演出効果です。

さて、この雪景色を演出するには、舞台一面に純白の布を敷き詰めるのですが、これを「雪布(ゆきぬの)」と呼びます。

それから雪を降らせる仕掛けですが、舞台の上方に「雪籠」と呼ばれる横長の籠を用意し、その中に白い紙片をいっぱい入れて、綱で引いて揺り動かして籠の目から白い紙片を舞台に落とすのだそうです。

江戸時代では、この雪片は和紙を三角に細かく切って落としたそうです。三角にするとヒラヒラと落ちていく様が、本当の雪が降っているように観客からは見えるのだそうです。「三角の雪」です。

ところが現代では、四角い雪になっています。たまに1等席に座っている時に、雪が降る場面があると、舞台から客席の前方にはいっぱい雪片が落ちて来ますが、幕間に拾いに行くとちょうど1cm四方の四角い紙切れです。歌舞伎座でも国立劇場でも雪は四角の紙切れですが、江戸時代では三角の雪として、ものの本には出ています。

 
 

雪は自然界にあっては、音もなくシンシンと降り積もるものなのですが、歌舞伎では、大太鼓をゆっくりとドンドンと叩いて音を付けます。雪が降る音ですが、不思議と本当に雪が降り積もっていくのだなあという雰囲気にさせる音です。また黒御簾(くろみす)では、雪の合方(あいかた、BGM)が演奏されることもあります。いずれも素晴らしい工夫だと思います。

三角の雪
 
  歌舞伎はいつも美しいのですが、雪の降るシーンというのは特に美しいものだと思います。


 
   
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