かぶきのおはなし  
  101.三姫  
 
歌舞伎の時代物に登場するお姫様のことを「赤姫」と呼びます。
何故「赤姫」などと呼ぶかというと、その衣装の色が赤を基調にしているからです。

緋の綸子や緋縮緬に、金糸銀糸で花筏(はないかだ)や桜に霞みなどの花模様の縫い取りをした振袖というのが、お姫様の衣装の典型です。帯は織模様か縫模様の振り下げ帯というのも決まりです。それに鬘も、いかにもお姫様然と見えるように銀の花櫛のついた「吹輪(ふきわ)」という鬘を用いるというのも決まりなのです。

 
 
三姫 「本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)」の"八重垣姫"、「祇園祭礼信仰記(ぎおんさいれいしんこうき)」の"雪姫"、「鎌倉三代記」の"時姫(ときひめ)"、「菊畑」の"皆鶴姫(みなづるひめ)"、「紅葉狩」の"更科姫(さらしなひめ)"、「積恋雪関扉(つもるこいゆきのせきのと)」の"小町姫"、「義経千本桜」の"静御前"、「絵本太功記(えほんたいこうき)」の"初菊" 、「妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)」の"雛鳥(ひなどり)"---- 等々数え上げたら切りがありません。すべて「赤姫」で、いずれもまことに豪華絢爛たる衣装で登場します。
 
  この数多い時代物の「赤姫」のうち、特に3人の代表的な「赤姫」を「三姫」と呼んで他の「赤姫」と区別しています。"八重垣姫"、"雪姫"と"時姫"の3人です。この「三姫」は数多い「赤姫」の役の中でも女形にとって至難の大役とされ気品と美しさが要求されるのです。そしてもう一つ「三姫」には、困難な周囲の状況の中にあって、恋に命を賭ける凛とした強さが備わっているのです。実の親よりも迷うことなく愛する男を選ぶという、そんな性根の据わった女性なのです。

ついでになりますが、「三姫」のうち"八重垣姫"は「狐火(きつねび)」という奇跡(諏訪明神の狐の霊力で凍った諏訪湖の氷の上を渡る)、"雪姫"は「つま先鼠」という奇跡(つま先で鼠の絵を描くと、絵が本物の鼠になって縛られた縄目を食い齧ってくれる)を起こします。恋に生きる女の一念によるものです。

なお、最近では役者によっては"雪姫"の衣装を鴇色(ときいろ、淡紅色)や浅葱色(あさぎいろ)にすることもあるようです。かくいう私も今までに見た"雪姫"はすべて鴇色でした。


 
   
back おはなしメニュー next