かぶきのおはなし  
  93.縁切り  
 
広辞苑によれば「縁切り」とは、「親子・夫婦などの関係を絶って、他人の関係になること」、とありますが、歌舞伎では、狂言の中でのある局面(縁切り場という)や、あるいは演出の型をさして「縁切り」と言います。

相思相愛の男女が何らかの事情があって、縁を切らねばならない局面に追いやられる、そうした場面・展開を「縁切り」と呼んでいます。

歌舞伎では、多くの場合、女の方から男に対して心ならずも「愛想づかし」を言って別れるというシーンが圧倒的に多いです。そして女が自分の意に反して「愛想づかし」を言わなければならないという抜き差しならない事情 --- 誰かへの義理だとか、身を犠牲にして家を守るとか、紛失した家宝を取戻す為だとか ---- そういった事情・女の真意を男の方で理解することが出来ないで、男が裏切られたとものと早合点をし、その怒りから「殺し」になるというのがお決まりの筋書きです。一方的な誤解の為に、男が愛する女を殺すというパターンです。

何故、男からより女からの「愛想づかし」が多いのか。男の方から女に「愛想づかし」を言って別れるというのでは、芝居にならないからなのでしょうが、多分、女の方が男よりも現実的であり、オトナであるからなのでしょう。男はロマンチストで、自分勝手で我が侭で強がりを言ってはいても子供なのです。

別に女性を非難している訳ではないので、誤解なさらないで下さい。日頃の、私自身への反省を込めてそう申し上げているだけです。

余談はさておき、この「縁切り」の場面では、下座音楽(げざおんがく)に胡弓(こきゅう)を擦る(演奏する)のが約束事になっています。下座から胡弓の音色が聞こえると、何やらやるせない侘びしい気分に包まれるのが不思議です。それから、女から「愛想づかし」を言う時、男の顔を見ないで言うのが、演出上の型となっています。苦しい胸の内を表現する為の工夫の一つなのでしょう。

 
 
「縁切り物」の代表的な狂言としては、「五大力恋緘(ごだいりきこいのふうじめ)」、「伊勢音頭恋寝刀(いせおんどこいのねたば)」、「御所五郎蔵(ごしょのごろぞう)」等が有名です。


縁切り
 
   
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