かぶきのおはなし  
  91.国崩し  
 
よく傾国の美女などと言いますが、絶世の美女のことを「傾国」と言います。あるいはまた転じて、遊女、傾城の意味にも用いるようですが、美人が色香で男を迷わせ国や城を傾け滅ぼすという、中国の漢書からでた言葉です。

歌舞伎の役柄の一つに「国崩し(くにくずし)」というのがあります。「傾国」と違うのは、美女はもともと国を傾けるのが主たる目的ではなく、ただ男を虜にしたいだけなのに、美女にうつつをぬかして政治を顧みない国王・城主が国を傾けるのですが、この「国崩し」というのは、自分の意志で一国を簒奪(さんだつ、横領の意)しようと企んでいる大悪人なのです。勿論、敵役です。

 
 
国崩し 「祇園祭礼信仰記(ぎおんさいれいしんこうき)」の"松永大膳(まつながだいぜん)"、「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」の"仁木弾正(にっきだんじょう)"、あるいは「新薄雪物語(しんうすゆきものがたり)」の"秋月大膳"などがこの類いでしょう。普通、「王子(おうじ)」または「燕手(えんで)」という鬘をつけて登場します。

「公家悪(くげあく)」という役柄も広義には「国崩し」の一種でしょうが、こちらは、どちらかと言えば天皇の位を狙っている、身分の高い公家の大悪人といったニュアンスがあって微妙に違います。
 
  「公家悪」という不気味な藍隈を取り(隈取りの名前も公家悪です)、金冠白衣に身を包んで、人間離れした超能力を備えています。「暫」の"清原武衡"、「菅原伝授手習鑑」の"時平"などがこの代表です。やはり「王子」という鬘をつけています。


 
   
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