かぶきのおはなし  
  90.間夫がなければ女郎は闇  
 
助六が男伊達の代表であることは申し上げましたが、揚巻だって負けてはおりません。揚巻は、その美貌に加え貫禄と品格を兼ね備えた吉原随一の花魁ですが、肝っ玉の大きさも、ちゃきちゃきの江戸っ子だけあって立派なものなのです。

自分に横恋慕する髭の意休、意休大尽というくらいですから金に糸目をつけぬところがあるのでしょうが、この意休を軽く袖にしていると、意休が悔し紛れに揚巻の恋人である助六のことを「泥棒だ」などと、遊女たちの前でこき下ろす場面があります。

すると助六のことを悪くいわれた揚巻は、負けずに意休に向かって悪態の言い放題、江戸っ子らしく胸のすくような啖呵(たんか)を切るのです。そしてこれだけ侍である(客でもあります)意休の悪口を言ったのだから、手にかけて殺されても構わないなどと堂々と開き直るところも痛快です。

そして、堂々と意休に向かって助六は自分の「間夫(まぶ)」だと広言します。 「間夫」というのは、まあ遊女の情夫・愛人というような関係にある男のことですが、お前が恐くて「間夫狂いがなるものかいな」、「慮外(りょがい)ながら揚巻でござんす」、私は揚巻だよ、見損なってもらっちゃあ困りますよ、と言った後、次の名せりふを吐くのです。揚巻の初音(はつね)です。

 
 
間夫がなければ女郎は闇 「助六さんと意休さん、例えて言えば雪と墨、硯(すずり)の海も鳴門の海も、海という字は一つでも、深いと浅いは客と間夫、さぁ間夫がなければ女郎は闇---」。間夫がいるから女郎をやってられるのよ、でも客との仲は一夜限り(浅い)だけど、助六さんとの仲は違う(深い)のよ、といった意味でしょうか。

幾ら金を積まれても、気に染まない客は凛(りん)として撥ね付ける。揚巻役者が、立て女方としての貫禄を示すしどころです。
 
  余談ですが、お寿司に「助六」というのがあります。お稲荷と海苔巻きが一緒に入っていますが、このお稲荷は油揚げですから"揚巻"で、海苔は江戸紫ですから"助六"です。恋人同士を一緒に折りに詰めて「助六寿司」とは洒落ているとは思いませんか。


 
   
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