かぶきのおはなし  
  88.助六由縁江戸桜  
 
歌舞伎十八番「助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)」は、「勧進帳」と並んで最も人気の高い狂言で、歌舞伎を代表する狂言の一つです。

筋書きはいたって単純で、主人公は"花川戸助六(はなかわどすけろく)"で実は"曾我五郎"という一応は「曾我物」の設定になっていますが、この助六が紛失した源氏の宝刀「友切丸(ともきりまる)」という刀を詮議する(探す)為、道行く侍に手当たり次第喧嘩を仕掛け(刀を抜かせる為です)、とうとう敵役の"髭の意休(ひげのいきゅう)"が「友切丸」を持っていることを知り、意休を斬って「友切丸」を取り戻すという、ただそれだけです。

歌舞伎の見所は、筋書きとは殆ど関係のないところにあるお芝居が多いのですが、この「助六由縁江戸桜」もまさにそうです。

この芝居の見所は、江戸吉原仲之町(廓の中です)を舞台に繰り広げられる「江戸市井の人々の生きざまを余すところなく活写している」ところにあると私は思っています。筋書きなどは、どうでもいいのです。

 
 
まず登場人物が多彩です。
主人公は、日本一のいい男"助六"と吉原一の花魁"揚巻"です。敵役には老獪(ろうかい)にして大悪の貫禄ある"髭の意休"、その手下である安敵(やすがたき)の"かんぺら門兵衛"と半道敵の"朝顔仙平"(衣装も鬘も朝顔で決めています)。助六の兄である"白酒売り新兵衛"(実は、曾我十郎)、助六の母"曾我満江"(まんこう)、揚巻の同僚である花魁の"白玉(しらたま)"を始めとする多くの遊女や禿(かむろ)ややり手婆たち。更には、田舎侍だの、蕎麦屋のかつぎ(出前持ち)だの通人(つうにん、通ぶった粋人)だのと、まことに多彩な顔ぶれでそれぞれが強烈な個性を持っているのです。

助六由縁江戸桜
 
  そしてこの多彩な登場人物たちが繰り広げるのが、江戸の名物「喧嘩」と「啖呵(たんか)」、「男伊達(おとこだて)」と「女伊達」です。「粋(いき)」と「きっぷ」です。

そうです。この「助六由縁江戸桜」というお芝居は「江戸を見る」お芝居です。そういう意味で、「時代物」というより「時代世話」と言った方が当たっているお芝居です。まるで豪華絢爛を誇る江戸吉原仲之町にタイムスリップしたような気分にさせてくれるお芝居なのです。

 
   
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