かぶきのおはなし  
  86.だんまり  
 
黙っているから「だんまり」なのですが、歌舞伎の演出用語です。また「だんまり」そのものが、一つの狂言になっている場合もあります。

「だんまり」とは、多くの登場人物が暗闇の中で、何かを求めて探りあい、立ち回る(争う)という極めて様式化された数分間の無言劇(パントマイム)のことです。

 
 
最も多いパターンは、深山幽谷(しんざんゆうこく)にある古い社といった不気味な場所で、大勢の人間 ---「大百」(だいびゃく)という鬘をつけた大盗賊やその手下、異様な扮装をした六部(ろくぶ、=巡礼)、前髪をつけた若衆、吹輪飾りの姫君、伝法な姿の悪婆 ----などが出会い、真暗闇のなかで、手探りで宝物などを奪い合うというものです。

何故そんな鳥も通わぬ恐ろしい場所に、姫君などが居るのかなどと無粋を言ってはいけません。時には、傾城が登場することだってあるのです。そもそもこの「だんまり」は、一座の役者の顔見世的なものなのです。一座の役どころの総展示会なのです。
だんまり
 
 
ですから、動きも極めてスローテンポで、衣装や形の美しさを見せることを主眼にしているものなのです。真暗闇だから見えないじゃあないか、とも言ってはいけないのです。ちゃあんと客席からは見えるということになっているのです。

この「だんまり」の場面では、暗闇を表わすという意味で背景に「黒幕」が張ってあることが多いようです。黒は見えないものの象徴です。よく「黒幕はあいつだ」とか「政界の黒幕」などと、表面には姿を見せない大物、悪の親玉のことを「黒幕」と言いますが、歌舞伎の「黒幕」から出た言葉です。

 
   
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