かぶきのおはなし  
  79.三つ子の兄弟  
 
菅原道真と藤原時平の政治的確執から道真の太宰府左遷というのが「菅原伝授手習鑑」の縦糸とするならば、梅王丸(うめおうまる)、松王丸(まつおうまる)、桜丸(さくらまる)の三つ子の兄弟が横糸です。

菅丞相の下屋敷の下僕である白太夫(しらたゆう)には、三つ子の兄弟があり、長男の梅王丸は菅丞相(かんしょうじょう)に、次男の松王丸は菅丞相の政敵である時平(しへい、公家悪として描かれています)に、そして三男の桜丸は斎世親王(ときよしんのう、天皇の弟、菅丞相の娘苅屋姫の恋人)に、それぞれの舎人(とねり=下級家来)として仕えたことから様々な悲劇が起こっていくのです。そして当然の帰結として、梅王丸・桜丸の二人が松王丸と対立するという図式になることは火を見るより明らかです。

「菅原伝授手習鑑」は、この縦糸と横糸が見事に調和して、義太夫狂言の名作の名を欲しいままにしている訳ですが、大きく見るとこの狂言では3つの別れが描かれていると言っても良いでしょう。

最初は、太宰府に左遷となる菅丞相と娘苅屋姫の生き別れです(2段目、道明寺)。2番目が苅屋姫と斎世親王の密会を取り持った責任から、桜丸が父親白太夫の70歳の賀の祝いの席で、切腹して果てるという親子の死別れです(3段目、賀の祝)。そして最後が、敵方だと思われていた松王丸が菅秀才(菅丞相の息子)の身替りに自分の息子小太郎の首を差し出すという、親子の首別れです(4段目、寺子屋)。

全5段の「菅原伝授手習鑑」で白眉といわれるのが、4段目の「寺子屋」です。上演回数も群を抜いて多いのが、この「寺小屋」です。

 
 
「梅は飛び、桜は枯るる世の中に、何とて松の つれなかるらん」。「梅は飛び」というのは梅王丸が菅丞相の後を追って九州に行ってしまったという意、「桜は枯るる」というのは桜丸が切腹して死んだこと、なのにどうして松(松王丸)だけは菅丞相に冷たいのか、と歌にまで詠まれていた松王丸が菅丞相への忠節を明らかにするのです。

以上を予備知識として「寺子屋」のお話は次回にします。
三つ子の兄弟
 
   
back おはなしメニュー next