かぶきのおはなし  
  75.俎板帯  
 
花魁の正装用の帯を「俎板帯(まないたおび)」と言います。前結びの帯で、花魁道中の時に締める豪華な帯です。結び終えた姿が、花魁の胸前から、幅は肩幅くらい、長さが1メートルくらいの、ちょうど大きな俎板をぶら下げたような感じになり、帯というよりまるで着物を引き立てるための衣装飾りのような感じです。そして「滝糸」という飾り糸をこの「俎板帯」の前面に垂らすこともあります。

お芝居でいうと「助六由縁江戸桜」の"揚巻"や、「籠釣瓶花街酔醒」の"八ツ橋"が、この「俎板帯」をしています。

一方、花魁道中などの華やかな姿ではなくて、「裲襠(うちかけ)」を脱いだ姿の日常生活の場での遊女の部屋着を「胴抜き(どうぬき)」と言いますが、この部屋着の時に結ぶ帯が「あんこう帯」です。やはり前結びの帯で、結んだ姿がちょうど鮟鱇(あんこう)という魚が口を開けた形に似ているところから付いた名前だそうですが、どうしてどうして、グロテスクな鮟鱇どころか、ゾクゾクするほど艶めかしいものです。

お芝居では「仮名手本忠臣蔵−7段目」の"お軽(おかる)"、「積恋雪関扉(つもるこいゆきのせきのと)」の"墨染(すみぞめ)"が「あんこう帯」をしています。また「廓文章」の"夕霧"もそうです。

 
 
なお「助六由縁江戸桜」でヒロインの"揚巻"がつける「俎板帯」や「裲襠」は、五節句にちなんだデザインのものを用いるという演出が定着しています。"揚巻"を演じる役者によって多少の違いはあるようですが、まず最初の出のところの衣装は、注連飾り、海老や橙、松竹梅、羽子板、門松など正月の宇宙を総て取り入れた「裲襠」に、鯉の滝登りの「俎板帯」です。

次に登場するときは、七夕の笹に短冊を台つけした「俎板帯」。そして水入りには重陽の節句にちなんだ菊花をあしらったもの、というように豪華絢爛のなかにも極めて儀式的な演出が確立しているようです。
俎板帯
 
   
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