かぶきのおはなし  
  71.ケレン  
 
よく、嘘はったりや、ごまかしのないことを「けれん味のない----」などと言いますが、この「けれん」(漢字では「外連」と書きます)というのも歌舞伎の演出用語です。

 
 
ケレン 歌舞伎では、宙乗り(役者が仕掛けによって空中浮揚する)や早替り(1人の役者が瞬時にして他の役・扮装に替わる)など、見た目本位の奇抜な演出のことを「けれん」と言います。 舞踊中に演者の衣装が一瞬にして替わる「ぶっかえり」や「引き抜き」、あるいは、鬘(かつら)の根元の仕掛けを引いて一瞬にして髷(まげ)を崩すという「がったり」も「けれん」の一種です。

この「けれん」については、歌舞伎の本筋からはずれた邪道であるとして、現在もなお専門家のなかには非難する人もいます。非難する専門家の言い分は、歌舞伎(役者)は芸で勝負するもので、仕掛けに頼り、いたずらに素人受けを狙った演出は歌舞伎の本道ではないというものです。
 
 
私のような素人が、こうした専門家の御説に反論することはできませんが、ただ言えることは、この「けれん」、見ていて結構面白いものです。難解で退屈な芝居を見るよりは、「けれん」がかった芝居でも、楽しい芝居のほうが私は好きです。

3世市川猿之助(いちかわえんのすけ)の芝居は、とりわけ「けれん」の要素が強く、やはり一部の専門家から異端児であるとの評がありますが、とにかく猿之助の芝居は分かり易くて面白い。とりわけ初心者には素直に受け入れ易いのです。

猿之助の歌舞伎に対する信条(と私が勝手に解釈しているだけなのですが)は、(1)スピーディーでテンポの速い(退屈で眠くならない)芝居であること、(2)難解なせりふを避けて現代人に分かる言葉で演じること、そして(3)とにかく筋書きが面白いことです。

歌舞伎界の門閥制度にも敢然と挑み、精進を重ね芸に優れた者は、たとえ名門の出でなくとも主要な役に抜擢・登用するという猿之助の行き方は、彼の先進性を示すものであり、また彼の人生観そのものだと私は思っています。

猿之助歌舞伎のなかでも、梅原猛脚本の「ヤマトタケル」などは、俗に「スーパー歌舞伎」などと呼ばれ、従来の歌舞伎の概念からは逸脱したものになっていますが、彼の思考はもう狭い歌舞伎の世界から外に飛び出しているのでしょう。そういう意味で、3世市川猿之助はやはり異端児なのかも知れません。

私はまだ見ておりませんが、猿之助のスーパー歌舞伎「三国志」では、蜀(しょく)の英雄"劉備玄徳(りゅうびげんとく)"は、女だということになっているそうです。さぞかし面白い歌舞伎?だろうと思います。


 
   
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