かぶきのおはなし  
  67.六法  
 
「六法(ろっぽう)」(六方とも書きます)というのは、歌舞伎の演技・演出用語です。主として荒事で用いられる「歩く芸」とでも言うのでしょうか、手と足を大きく振るのを基本にして、歩く姿・歩く仕草・歩く風俗を誇張して見せるものです。

ただ、役者が舞台中央で歩く場合には、「六法」とは言いません。「六法」とは、役者が、花道七三から揚幕(あげまく)に向かって引っ込むときに、見せる歩き方を特に「六法」というのです。

この「六法」(六方)の語義には、諸説があるようですが、最も有力な説は、歩くときに「天地東西南北」の6方向に手を動かすことから出た言葉だというものです。

 
 
それはさておき、芝居に色々な役柄があるように、「六法」にも色々な種類があります。
代表的なものをご紹介しますと、まず何といっても弁慶の「飛び六法」です。名作「勧進帳」の掉尾(とうび)を飾るに相応(ふさわ)しい豪快なものです。この最後の場面である「飛び六法」を見ないと「勧進帳」を見たことにはならないという程見ごたえのあるものです。弁慶の背負った笈(おい)や金剛杖がまるで「飛び六法」の為の小道具にさえ見えます。
六法
 
  この「飛び六法」は、何も弁慶だけの専売特許ではありません。「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)」で、やはり"梅王丸(うめおうまる)"が見せます。

松羽目物「茨木」では、"鬼女"が「片手六法」というのを見せます。「義経千本桜」の"狐忠信"は「狐六法」、「宮島のだんまり」では「傾城六法(けいせいろっぽう)」、「鯨のだんまり」では「泳ぎ六法」という珍しい「六法」もあります。

最後に言い忘れましたので、付け加えますが、この歩く芸である「六法」を演ずることを「六法を踏む」と言います。


 
   
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