かぶきのおはなし  
  63.景清  
 
平家の武将「悪七兵衛景清(あくひちびょうえかげきよ)」という人物は、「平家物語」の中でも、史実においても影の薄い存在なのですが、歌舞伎の世界では極めて重要な存在です。

史実としての景清は、どうもよく分からない部分が多いのですが、壇ノ浦の合戦で戦死したとも、生き延びて平家再興を図ったとも、あるいは頼朝に降ったとも言われています。

 
 
景清
しかし歌舞伎における景清は、常に頼朝に一矢報いんとつけ狙う、鎌倉幕府に対する反逆者として描かれています。そして勿論、A・シュワルツェネッガーみたいに大変な怪力無双の勇者で、常に英雄的存在として描かれているのです。

ちょうど曾我兄弟が伝説・神格化していったように、勝者よりもむしろ同情すべき敗者の行動をこそ美化・神格化していくというのが日本人の性癖なのでしょう。古くは、菅原道真がそうでしたし、景清と同世代では義経だってそうです。
 
  歌舞伎における景清象の形成に影響を与えたのは、能や幸若舞の「景清」だといわれております。ここでの景清は頼朝への復讐の妄念を絶つ為に、みずから両眼を抉(えぐ)って盲目になってしまいます。源氏に対する復讐の念に燃える凄まじいまでの執念を持った人物「景清」は、いつしか庶民の共感を呼び、徐々に信仰の対象となっていきました。

歌舞伎十八番「景清」をはじめ、近松門左衛門の「出世景清」や他にも「壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)」、「嬢景清八島日記(むすめかげきよやしまにっき)」など多くの「景清物」の作品が今日でも繰り返し上演されています。


 
   
back おはなしメニュー next