かぶきのおはなし  
  53.やっとことっちゃうんとこな  
 
「やっとことっちゃうんとこな」。いったい何のことだか分かりますか?実は、そう言う私自身もこの言葉の意味は、よく分からないのです。

 
 
「暫」の鎌倉権五郎景政が、悪人どもをやっつけて悠々と花道を引き揚げるときに「やっとことっちゃうんとこな」と言うのです。無理して訳すると「どんなもんだい、一丁あがり」、「やったぜ、ベィビー」とでもいうのでしょうか。あるいは、「やれやれ」とか「俺はこんなに強いんだぜ」といった気分を表現しているのでしょうか。

やっとことっちゃうんとこな
 
  そう言えば「助六由縁江戸桜」で、花川戸助六が、"くゎんぺら門兵衛"と"朝顔仙平(あさがおせんぺい)"という2人のちんぴらをやっつけた後にも、この言葉「やっとことっちゃうんとこな」を発します。

ところが「矢の根」では、五郎が大の字になって寝るときに「やっとことっちゃうんとこな」とやはり言いますが、この場合は「どれ、いっちょう寝ようとするか、やれやれ」という意味ぐらいに解釈するしかなさそうなのです。

しかし、歌舞伎に理屈は禁物です。市川宗家の荒事芸では、主人公がとにかく「やっとことっちゃうんとこな」と言うのです。意味は分かりませんが、深く考える必要もなさそうです。荒事は、子供の心で演じるのが口伝であれば、観客もまた、おおらかな気持ちで見るのが良いのでしょう。


 
   
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