52.暫 | ||||||
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ストーリーは、極めて単純・明快です。鎌倉は鶴岡八幡宮の社頭で、善人たちが、大悪人どもに色々と難癖をつけられ、いままさに理不尽にも斬り殺されようとしている瞬間に、花道から正義の味方、鎌倉権五郎景政という名前のスーパーマンのように強いやつが「しばらく、しばらく」と言って出てくるのです。英語で言うと、「Just a moment」。要するに俺が行くから「ちょっと待て」ということです。そして、その怪力無双の強さを発揮し、悪人どもを懲らしめて悠々と引き揚げるという、ただそれだけの筋書きです。 何ともくだらないといえば、それまでですが、この稚気(ちき)溢れるお芝居は、馬鹿馬鹿し過ぎて、見ていて結構楽しいのです。 鎌倉権五郎景政という男の扮装はというと、顔は荒事を代表する紅の「筋隈」です。鬘(かつら)は、ムカデの親玉のような「五本の車鬢(くるまびん)」。頭に烏帽子をいただき、蝶々のような白い力紙をつけています。服装はといえば、柿色の素襖に長袴、腰には長さ2mを超す、あの佐々木小次郎の「物干し竿」よりもっと長い太刀を佩(は)いています。素襖だって横に広げると3mは十分ある大きさです。(実際に、見得を切ったとき、後見は素襖を広げて鎌倉権五郎景政の大きさを強調します)。まるで化け物のような扮装です。 こんな格好でよく喧嘩が出来るのか、動きにくくて仕様がないじゃあないか、などと無粋なことを言ってはいけません。何しろ彼は強いのです。舞台中央に進み出て、悪人どもの家来が彼に切りかかろうとしたとき、彼がその大太刀を一閃するや、たちまち10人の首を斬り落としてしまうのです。舞台に転がった10個の人形の首を見て、思わず失笑してしまいますが、理屈ぬきに楽しめる芝居です。 悪人方ですが、ボスは清原武衡といって「公家悪(くげあく)」の隈取りです。いかにも天下覆滅を狙う悪公卿といった扮装。家来たちは、赤っ面(あかっつら)の化粧をほどこし、おなかにも隈を取った「腹出し奴」です。「鯰隈(なまずぐま)」をした鯰坊主鹿島入道震斉(かしまにゅうどうしんさい)という、半分、道化っぽい役柄や、女なまず照葉(てるは)という実は善人方が送り込んだスパイがいたり、登場人物すべてが個性的で、豪華な色彩と洗練された演出は、見る者をして心豊かな子供の世界で遊んでいるような気分にさせてくれます。 市川宗家の口伝にあるそうです。「荒事は、子供心で演じよ」と。 |
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