かぶきのおはなし  
  48.白浪  
 

河竹黙阿弥の最高傑作の一つに、「青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)」という狂言があります。正式な外題(げだい、狂言名)は、こういうのですが、一般的には「白浪五人男」だとか、「弁天小僧」といえばよくご存知でしょう。

さて、この「白浪(しらなみ)」という言葉は、泥棒とか盗賊とかいう意味です。「白浪五人男」というのは、五人の泥棒達といった意味なのです。

白浪
 
  話は、中国。後漢の末期というから、2世紀後半から3世紀にかけて、黄巾賊(こうきんぞく)という盗賊集団(時の政権に対する叛乱軍でもあります)が、跋扈(ばっこ)したのですが、この賊徒の集団が、黄河上流の「白波谷(はくはこく)」という場所を根城としたことから、この賊徒の集団のことを「白波賊(はくはぞく)」という名前で呼びました。ここから泥棒のことを「白波」(現在では、「白浪」と書くほうが多いようです)と呼ぶようになったのです。

さてこの芝居の「白浪五人男」ですが「稲瀬川勢揃いの場」では、五人男が、雨も降っていないのに、お尋ね者の身であることもお構いなしに、白昼堂々と傘をさして登場するのです。そして、あろうことか、その傘には、大きな字で「志ら浪(しらなみ)」と書いてあるのです。

「俺は泥棒だぞ!」と、自分で宣言しながら出てくる訳です。そして、ひとり一人、自分がどんなに凄い泥棒かということを、捕り手(警察)の前で名乗るのです。

現代でいうなら、警視庁の前で、自分達は凄く格好のエェ泥棒だぞと名乗る、そんな間抜けな泥棒はいないのですが、そこが黙阿弥の世界、歌舞伎の世界なのです。不条理であっても美しい世界なのです。

最後にこの五人の泥棒の名前を挙げましょう。まず、賊徒の張本(ボス)が、「日本駄右衛門(にっぽんだえもん)」、続いて「弁天小僧菊之助(べんてんこぞうきくのすけ)」、「忠信利平(ただのぶりへい)」、「赤星十三郎(あかぼしじゅうざぶろう)」、そしてどんじりが「南郷力丸(なんごうりきまる)」です。
 
   
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