かぶきのおはなし  
  40.どこまで変名か?  
 
幕府の検閲を恐れ、実際の人物を架空の人物に(ただし、実際の人物を連想させるような名前で)置きかえることは、どこまでやったのでしょうか?

結論を申し上げますと、徳川政権樹立と関係のあるところまで、つまり織田・豊臣政権時代までで、それ以前の人物は、通常は実名で出てきます。「吉良は悪者」という定説が定着しましたが、徳川家康だって庶民の出である「太閤さん(秀吉)」より人気において劣っていただけでなく、腹の読めない「タヌキ爺い」であった訳ですから、そのライバルを芝居の中で賞賛する訳には、まいりません。でも足利政権以前であれば、徳川とは何の関係もないから映倫で引っ掛かることはないのです。

 
 
どこまで変名か? 以下に、歴史上の実名と歌舞伎に登場する場合の役名を、思い付くまま書きあげました。少し覚えておくと、芝居を見るとき混乱がなくて良いかもしれません。
歌舞伎はワンパターンですから、たいていの芝居に当てはまると思います。
 
  (戦国時代)
明智光秀 → 武智光秀
織田信長 → 小田春永
豊臣秀吉 → 真柴久吉
木下藤吉郎 → 此下東吉(このしたとうきち)
松永久秀 → 松永大膳
加藤清正 → 佐藤正清
徳川家康 → 北条時政
真田信幸 → 佐々木盛綱
真田昌幸 → 佐々木高綱
後藤又兵衛 → 和田兵衛秀盛
千姫 → 時姫

(伊達騒動)
伊達綱宗 → 足利頼兼 ---- 伊達家3代当主、廓通いの不行跡で隠居
伊達亀千代 → 鶴喜代 ---- のち伊達家4代当主綱村
原田甲斐 → 仁木弾正 ---- 妖術使い
酒井雅楽頭忠清 → 山名宗全 ---- 大老
板倉内膳正重矩 → 細川勝元 ---- 老中
伊達兵部宗勝 → 大江鬼貫 ---- 伊達政宗10男、お家横領を企む
伊達安芸宗重 → 渡辺外記左衛門 ---- 伊達家一門

(忠臣蔵)
浅野内匠頭長矩 → 塩冶判官高貞
吉良上野介義央 → 高師直
伊達左京亮宗春 → 桃井若狭之助 ---- 浅野内匠頭と同じ勅使饗応役
梶川与惣兵衛 → 加古川本蔵 ---- 松の廊下で浅野内匠頭を抱留めた
大石内蔵之助 → 大星由良之助
大野九郎兵衛 → 斧九太夫 ---- 大石と並ぶ浅野家の家老
大石主税良金 → 大星力弥 ---- 大石の長男
萱野三平 → 早野勘平 ---- 討ち入り前に切腹
天野屋利兵衛 → 天川屋義平 ---- 回船問屋主人、武器商人
寺坂吉右衛門 → 寺岡平右衛門 ---- 足軽、(歌舞伎では、お軽の兄)
瑤泉院 → 顔世御前 ---- 浅野内匠頭長矩の奥方

 
   
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