かぶきのおはなし  
  35.義太夫狂言  
 
もともとは文楽(人形浄瑠璃)の為に書きおろされたもので、歌舞伎の中に取り入れ昇華・発展・完成させていった作品のことを「丸本歌舞伎(まるほんかぶき)」と言います。

 
 
また、この「丸本歌舞伎」のことを別名、「院本歌舞伎(いんぽんかぶき)」、「丸本物」、「院本物」、あるいは「竹本劇」とか、色々な名前で呼ばれます。いずれも意味は同じで、人形劇の戯曲を歌舞伎に移入してできた、歌舞伎狂言のことを指します。

文楽からとった作品ですから、伴奏音楽は当然義太夫節ですが、この義太夫節の詞章が書かれたものを「丸本」とか「院本」ということや、義太夫節の創始者である竹本義太夫の名前をとったりでこんなに沢山の言い方があるのですが、それにしても、一般人からすればこの名前の数には、大いに迷わされます。

義太夫狂言
 
  「丸本歌舞伎」の伴奏音楽は、義太夫節ですが、最初から義太夫節を使って歌舞伎の為に書き下ろされた作品も少数ですがあるにはあって、これら、義太夫節で筋を展開する作品を総称して「義太夫狂言」と呼びます。

ですから「義太夫狂言」のほうが、「丸本歌舞伎」より少し広い概念になります。

さてこの「丸本歌舞伎」の特徴は、舞台上で演ずるのが人間(当然、口があるから喋ることが出来る)であることからして、歌舞伎では義太夫は不要な筈ですが、やはり義太夫作品であることの伝統を守る為か、舞台上手、中二階の御簾(みす)の中で、義太夫節を演奏するのが慣例になっています。

ただ、語りの部分については、舞台上の役者のせりふを補うという意味で、その場の情景描写を語ったり、登場人物の心理状態を説明したり、喋ることの出来る役者と義太夫との役割分担ができているようです。

なお、通常は御簾(みす)のなかで(つまり客席からは義太夫の顔が見えない形で)演奏される義太夫が床(ゆか)に出て(つまり、語り・三味線ともに観客から姿が見える形で)演奏する場合がありますが、これを特に「出語り(でがたり)」と呼んでいます。

それから義太夫節の演奏者のことを「チョボ」と言いますが、これは、床本(ゆかほん、浄瑠璃の台本のこと)の自分が語る部分に印の点(チョボ)を付けたことから来ています。「チョボ」と言わないで「竹本」とだけ呼ぶ場合もあります。

また、義太夫の伴奏に用いられる三味線は、普通の三味線に比べて、その音色は低く、強く、太い音を出すのが特徴で、その棹じたいも太く作られており、この義太夫に独特の三味線のことを「太棹(ふとざお)」と呼びます。こんど劇場に行かれたら、よく耳を澄まして聞き比べてみて下さい。

こんにち、私たちがよく鑑賞する歌舞伎狂言には、文楽からでた「丸本物」が、沢山あります。三大義太夫狂言といわれる「仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)」、「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)」、「義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)」のほかにも、「妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)」だとか「本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)」など多くの名作があります。「丸本物」なくして歌舞伎狂言は語れない、といっても過言ではありません。

 
   
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