かぶきのおはなし  
  33.役者の階級  
 
落語で「真打ち」という言葉をよく耳にします。「誰それが、真打ちに昇進した」と言いますが、「真打ち」が落語家にとって最高の地位ということになります。

落語界では、その地位(階級)が、3ランクに区分され、下から順に「前座」、「ふたつめ」そして「真打ち」です。上にいくほど偉くなる訳です。

これを大相撲の世界で言えば、「序の口」、「序二段」、「三段目」、「幕下」、「十両」、「幕内」となり、さらに「小結」、「関脇」、「大関」と進んで、最高位が「横綱」となる訳です。

歌舞伎の世界でも、古くから役者の階級が厳格に定められていました。役者の世界は、極めて閉鎖的な身分制度がきっちりと守られていたのです。

さて、その区分ですが、これは時代によって分けかたがかなり違っていたようで、幕末から明治期では、上から順に「名題(なだい)」、「名題下(なだいした)」、「相中上分(あいちゅうかみぶん)」、「相中」、「新相中(しんあいちゅう)」の5ランクに分かれていたそうです。そして「名題」のなかでも特に一座のボスのことを「座頭(ざがしら)」と呼んでいました。

現代では、こうした複雑で厳格な階級は存在しなくて、ただ「名題」、と「名題下」の2ランクだけの分類となっているようですが、例え階級はそうであっても、この世界では、「梨園(りえん)の御曹司」でなければ出世できないという、極めて封建的な門閥社会であるというのが現実のようです。

なお、階級の低い役者のことを「大部屋俳優」とか「三階さん」などと呼ぶことがありますが、これは昔の芝居小屋の部屋割りが、三階の「大部屋」だったからです。もっとも江戸時代は3階建ての芝居小屋は禁止されていたので、正確に言えば中二階をひとつに数えて本二階が大部屋です。

もう一つ「稲荷町(いなりまち)」という言葉があります。江戸から明治にかけて良く使われた言葉のようですが、やはり最下級の役者をさす言葉です。端役やぬいぐるみの動物専門の役者で、雑用係も兼ねていたそうです。語源は、色々な説がありますが最も有力なのは、楽屋に祀った稲荷大明神(芝居の守護神)の隣りに部屋があったことから出たということだそうです。

なお、江戸時代を通じて、最下級の稲荷町から名題にまで出世した役者は、私の知る限り、初世中村仲蔵(1736−1790)と4世市川小団次(1812−1866)の2人だけです。


 
 
初世中村仲蔵は、「仮名手本忠臣蔵−5段目」の"斧定九郎(おのさだくろう)"を端役から花形役者の勤める役に作り変えたことで有名です。また、幕末の4世市川小団次は「東山桜荘子(ひがしやまさくらそうし)」の"浅倉当吾"役で大当たりを取ったことで有名です。
役者の階級
 
   
back おはなしメニュー next