かぶきのおはなし  
  32.松羽目物  
 

能楽師の梅若三郎が、1999年11月29日に東京赤坂・サントリーホールで、新作能「ジゼル」を上演しました。

「ジゼル」といえば、1841年にパリ・オペラ座で初演されたバレエの名作で、王子アルブレヒトに恋をした村娘ジゼルの悲劇を描いた、白鳥の湖に勝るとも劣らないとても美しいバレエ作品です。

松羽目物
 
 
江戸時代から歌舞伎においても、他の芸能を貪欲に吸収し、それを歌舞伎の中で昇華・発展・完成させていった作品が数多くあります。

そのなかで、題材を能・狂言から取ったものを、「松羽目物(まつばめもの)」と呼びます。

この「松羽目物」は、能舞台を模して正面には大きく根付きの老松、左右の袖には竹を描いた松羽目(板)が飾り付けられ、下手に五色の揚幕(あげまく)が、上手には臆病口(おくびょうぐち)がある能舞台さながらの舞台を拵えて演じられます。(揚幕、臆病口とも役者の出入り口です。)そして演技も能がかりで演じられるのが普通です。松を描いた、はめ板で舞台を構成するので「松羽目物」と言うのです。

いま、数ある歌舞伎狂言の中でも最も人気の高い作品の一つである「勧進帳(かんじんちょう)」は、「松羽目物」の代表です。このほか「船弁慶(ふなべんけい)」、「土蜘(つちぐも)」、「素襖落(すおうおとし)」、「茨木(いばらき)」 ---- など「松羽目物」の名作は沢山あります。

歌舞伎はいつの時代もチャレンジ精神が旺盛な演劇で、何でも自分のなかに取り入れ、新しいものを作りあげていったのです。まさに、歌舞伎は生きているということでしょう。
 
   
back おはなしメニュー next