かぶきのおはなし  
  31.時代物と世話物  
 
歌舞伎の出し物(演目)のことを「狂言」と言います。あるいは、これだと能・狂言と紛らわしいというので、「歌舞伎狂言」と言ったりもします。もともとは、脚本をさす言葉だったようですが、芝居の作品、芝居そのものの意味で使われるようになりました。

さて、ここでは数ある歌舞伎狂言(作品)の分類についてお話をしようと思います。映画監督で、歌舞伎にも造詣の深かった武智鉄二が、これを12の様式に分類したというのは有名な話ですが、それをそのままご紹介しても何やら難しすぎて、頭が痛くなりそうなので止めにします。

三百数十年に及ぶ歌舞伎の歴史と、いったい幾つあるのか数え切れないほどある歌舞伎狂言を、分かり易くきれいな形で分類するのは至難のことです。同じ芝居の内容でも、演出や演技の型を少し変えただけで、全く異なるものになってしまうことだってあります。

作品の背景となっている時代区分による分類、作品の題材が属する階級(貴族・公家社会か武家社会かあるいは町人社会など)による分類、作品が最初どの演劇(能、人形浄瑠璃、歌舞伎など)の為に書かれたものかという分類、演技の型(荒事、和事)とか内容(白浪物、心中物、お家物、道成寺物、縁切り物など)による分類、作者による分類、作品がつくられた時代による分類、舞踊劇かどうかという分類 ---- などなどこのほかにもあるのでしょうが、作品の数が多いだけに分類の仕方も多様です。

 
 
「時代物」と「世話物」という分類は、作品に描かれた身分階級による分類ですが、もっともオーソドックスな分類の一つです。
時代物と世話物
 
  「時代物」というのは、公家や武家階級(社会)を描いた作品のことを言います。そして、そのなかで、とくに飛鳥・奈良・平安の王朝時代を扱った作品を「王朝物」と呼んだりします。また、武家社会のなかでも特に加賀藩や伊達藩などのお家騒動を扱ったものを「お家物」と呼びます。

これに対して、江戸の市井の風俗というか町人社会を描いたものが「世話物」で、この「世話物」のなかでも、極めて写実的に(リアルに)町人社会を生々しく描いたものを特に「生世話物」(きぜわもの)と呼びます。

また、江戸末期には、この「時代物」と「世話物」が渾然一体(こんぜんいったい)となり、区別がつかない作品が生まれるようになりましたが、こういった作品を「綯い交ぜ(ないまぜ)」と呼びます。

歌舞伎座などでは、昼の部・夜の部とも3本建ての出し物構成になっていることが多いのですが、たいていは最初が「時代物」、次に所作事(しょさごと、舞踊物のこと)、そして最後に「(生)世話物」という並び順になっています。

一般的に「時代物」は庶民にとっては見ていて難解で肩が凝ります。疲れます。それなら観客が元気なうちに出してしまえばよいから最初に出そうという訳です。間には舞踊が目先が変わってちょうど良いでしょう。気分転換にもってこいという訳でニ番目に出すのです。そして最後。疲れてきた頃です。ぐっと砕けた、自分たちの身近な出来事を描いた「世話物」でまた観客の関心を引きつけようという訳です。

こうした興行側の苦心の結果、時代物・所作事・世話物という並び順が出来上がったということです。
 
   
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