かぶきのおはなし  
  28.析(き)  
 

拍子木(ひょうしぎ)でツケ板を打つのが「ツケ」ですが、2本の拍子木(析)をチョンチョンと打つのが「析(き)」です。
チョンチョンという音色、いかにも歌舞伎らしい音色です。

チョンチョン!
 
  さてこの「析」。打っている場所は、舞台上手ですが、「ツケ」は黒衣が出てきて私たちの目に触れるところで打ちますが、「析」は引幕に隠れて打っているので客席からは見えないのが通常です。

「析」を打つパターンは、大きく分けて3つあるようです。

第一は、「知らせ」と呼ばれるもので、幕開け前に観客とは直接的には関係ないところで楽屋内の段取り・時間の知らせなどのために打たれたり、幕開けや幕切れのときに打たれたりするものです。要するに合図です。

第二は「きっかけ」と呼ばれるもので、上演中に例えば、セリを上下させたり、回り舞台を回転させたり、浅黄幕(あさぎまく)をきって落としたりするタイミングを指示するための合図として、打たれるものです。

そして第三は、「つなぎ」と呼ばれるもので、これは私たち観客に知らせる為のものなので、よく知っておかねばならないことですが、案外知らない人が多いものです。

どういうことかというと、定式幕が引かれ(閉じられ)たとき、「析」がチョチョン、チョチョンと二つずつ間合いを見計らって繰り返し打たれているときは、直ぐに次の幕が開きますから席を立たないで、という合図なのです。

前の幕から次の幕へと場面は展開していきますが、前の幕における緊張感を持続していないと、芝居としてはシラケた雰囲気になりかねないのであって、そうした演出者の意図にも拘わらず、この「つなぎ」の「析」が打たれているのに、勝手に幕間だと思い込んで席を立つことは、観客のマナーに悖(もと)ることだと思います。

「析」が、大きくチョンと一つだけ打たれれば、これで幕間になり、休憩時間を表わすランプが点灯します。このときは、席を立っても構いません。
 
   
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