かぶきのおはなし  
  27.ツケ  
 
これからお話するのは、飲み屋の「ツケ」のことではなく、歌舞伎の演出用語としての「ツケ」です。

 
 
歌舞伎の舞台上手の一番端っこの客席寄りのところ。この位置に黒衣(くろご)を着た人(ツケ打ちといいます)が床に座り、やや厚い四角の板(ツケ板といいます)を自分の前に置き、その板をちょうど拍子木のような2本の析(き)で叩いて、音を出します。これが「ツケ」です。
音を出す、つまり音を付ける、というところから「ツケ」と呼ばれるようになったのではないかと、勝手に想像しています。
ツケ打ち
 
  「ツケ」を打つのは、大別して2つの場合があるようです。

一つ目は、役者が見得を切ったとき、それを強調する場合です。その見得を、大きくクローズアップして観客にアピールする役目を果たします。役者が、最も格好よく見える瞬間を際立たせるのです。

二つ目は、物の音を強調して聞かせたい場合、あるいはその場面を観客に印象付けたいときです。

例えば、役者がバタバタと駆け出すときとか、立ち回り(斬り合い)を演じているときなどです。また例えば、財布だとか巻き物だとか、かんざし、紙切れや手拭いを落としたときにも、「ツケ」を打ちます。紙切れや手拭いなんか、地面に落としたところで本当は音などしないのですが、そこが歌舞伎、落としたことが劇の進行上、重要な意味を持つ場合など、観客にそのことを印象付けさせる為に、わざわざ音を付けるのです。

なお上方では、「ツケ」とは言わず、「かげ」と言うそうです。
 
   
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