かぶきのおはなし  
  15.すっぽん  
 
花道で、揚幕(楽屋入り口)から7、舞台から3の割合に当たる位置を「七三(ひちさん)」と呼びます。7:3に分けた位置だから「七三」です。

役者が揚幕から登場してくるときを、出端(では)と言いますが、必ずこの「七三」の位 置でいったん止まり、名乗りをあげたり、ショーモデルがランウェイでポーズをキメるように見得(みえ)を切ったり、何かの仕草をしたりします。
舞台から退場する際にも、この「七三」で立ち止まって、行先や目的を確認したり、見得を切ったり、何かの仕草をしたりします。
いわば、「七三」は、花道で演技をする為の、定位置のような場所だと思えば良いでしょう。
 
 
すっぽん この「七三」の位置に、特殊な「セリ」が切ってあり、その「セリ」の名を特別 に「すっぽん」と言うのです。
「セリ」とは、舞台面と舞台下とを上下させるエレベーターのようなものだと、前に書きました。この「七三」のところにある「セリ」の大きさは、劇場によって違うのでしょうが、おおよそ縦75cm、横150cm(もっとも、どちらが縦だか横だか、そんなことはどうでも良いのですが)くらいだということです。
 
 
ここで一つ約束事があります。この「すっぽん」を使って出入りするのは、人間ではないということです。忍者(これも歌舞伎では人間ではない)や、幽霊、妖怪変化、怪獣などに限ってこの「すっぽん」から出入りすることが、認められているのです。2000年のお正月、国立劇場の「忍夜恋曲者(しのびよるこいはくせもの)」で9世中村福助(なかむらふくすけ)扮する"滝夜叉姫(たきやしゃひめ)"が「すっぽん」から出てきましたが、この時点で滝夜叉姫は既に人間ではない(妖怪変化の類)だと分かる訳です。

舞台の底から、ぬうっとセリ上がってくる役者の様が、亀のスッポンの首に似ているからついた名だということです。また、切り穴が閉まる時、スポンという音がするから付けられた、と言う人もいます。
 
   
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