かぶきのおはなし  
  9.勘亭流  
 


歌舞伎を見に行くと、いやが上にも目に入ってくる独特の書体で書かれた文字。役者の名前や狂言名などが、筆太に、内側に丸く丸く曲げるように、そして白い空白の部分がほとんどないようにびっしりと書き込まれています。いかにも歌舞伎を見に来たのだなあという雰囲気にさせる書体の文字です。寄席や大相撲の書体に似てはいますが、よく見ると少し違います。

この書体を「勘亭流(かんていりゅう)」と言います。


勘亭流
 
 

江戸堺町に住んでいた岡崎屋勘六(1746−1805)という書道指南が、安永8年(1779)、中村座の為に書いたのが始まりだと言われています。この岡崎屋勘六の号を「勘亭」というので、「勘亭流」という流派になっていったのです。

さて、この独特の書体の文字には、いろんな意味が込められていると言われています。
まず第一は、内に内にと内へ丸く曲げて書く。これは、観客を劇場の内へ呼び込むという意だそうです。内側へ誘い込むのです。
そして第二は、用紙の白いところが殆どないくらいに、隙間なく書き込むこと。客席に隙間のないように、客席が人で埋まって満員であること(大入り満員)を願っているという訳です。
岡崎屋勘六が、本当にそう願って考案したものか、はたまた後世の識者共が勝手に講釈を巡らしたものか、本当のところは分かりません。

 
   
back おはなしメニュー next