かぶきのおはなし  
  8.二枚目  
 
1999年11月25日の日本経済新聞の夕刊に、こんな記事が載っていました。
「京都南座でまねき上げ」。

東京の歌舞伎座は、江戸時代からの慣習で11月が「顔見世興行」ですが、役者繰りの都合からだと思うのですが、京都南座では、12月が「顔見世興行」となっています。そして、この京都南座の「顔見世興行」を前に、恒例の「まねき上げ」が25日に行われたというものです。古都・京都に冬の訪れを感じさせる恒例の行事です。
 
 

「まねき」というのは、「まねき看板」とも「まねき板」とも呼ばれるものですが、一枚の大きさが縦(長さ)180cm、横(幅)32cmのヒノキの板に、「勘亭流(かんていりゅう)」と呼ばれる歌舞伎独特の書体で、出演の役者の名前を大書した看板のことです。

この日、南座では、中村鴈治郎(なかむらがんじろう)、片岡仁左衛門(かたおかにざえもん)はじめ出演者51枚の「まねき」が、劇場正面 の入り口上方に掲げられたとのことです。(現在、この江戸時代からの慣習が残っているのは、京都南座のみです。)
二枚目・・・まねき
 
 


ところで、この「まねき」、並べる順番には江戸時代から、一座の座頭(ざがしら=ボス)はどこに、立て女方はどこに、端役はどこそこに----などと厳格な決まりがありました。
そして、歌舞伎の役柄の分類で「やつし」、「濡れ事師(ぬれごとし)」の位 置が、右から二枚目だったのです。いや、「濡れ事師」などと業界用語を使うのは止めましょう。要するに、女にもてる色男、美男役、カッコ良い役を演じる花形役者の「まねき」の位 置が、右から二枚目だったのです。
爾来(じらい)、キムタクのような、格好の良い美男子のことを「二枚目」と呼ぶようになりました。

ついでに言うと、「道化役(どうけやく)」の「まねき」の位置は、右から三枚目でした。滑稽(こっけい)で、喜劇的な役どころです。「三枚目」の語源です。

なお、この「まねき」の屋根の形ですが、イラストにあるように関西では「入山形(いりやまがた)」をしていますが、東京では(既に「まねき」をあげるという習慣自体がなくなってしまいましたが)「への字」(ただの山形)をしていたそうです。

それから歌舞伎では、「立(たて)」という言葉を、中心、第一人者、ナンバーワンの意に用います。「立作者(たてさくしゃ)」(現代風にいえば、専属のシナリオライター)、「立三味線(たてじゃみせん)」(NO1の三味線奏者)、「立役者(たてやくしゃ)」(一座の中心を占める俳優)などと使います。現代用語の「立役者」(一番大きな役割を果 たした人、貢献度第一の者)というのも歌舞伎用語なのです。

 
   
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