かぶきのおはなし  
  4.定式幕  
 
「ていしきまく」と読まないで下さい。「じょうしきまく」が正しい読み方です。

 
 
定式幕 英語でいうとCommonsense。と言うのは冗談ですが、「じょうしきまく」と読むのは、歌舞伎の常識です。 劇場に行くとよく見かける3色の縦縞の引幕のことで、3色の木綿の布を縦に縫い合わせて作るのだそうです。 3色とは、「黒」、「柿」、「萌葱(もえぎ)」の3色です。そして、この3色は歌舞伎のシンボルカラーでもあります。
 
  劇場に入った途端、この定式幕がまず目に入るのですが、これを見ると心浮き立つものを感じるから不思議です。
江戸時代には、「狂言幕」とも呼ばれていたそうです。

ところで、これはちょっと気が付きませんが、この黒・柿・萌葱の3色の並び順は、劇場によって違うのです。国立劇場は、右から黒・柿・萌葱の順ですが、歌舞伎座は、左から黒・柿・萌葱の順なのです。こんど劇場に行かれたらよく注意して見て下さい。

歌舞伎に語源を発する日本語は多くありますが、この定式幕にちなんだ言葉で現代にも使われる言葉は沢山あります。
この定式幕は、芝居の一場面が終わると当然に引かれるのですが、やはり析(き)をチョンと打ち鳴らしてからしめます。これを「幕切れ」と言いますが、歌舞伎に限らず、一般 にも「あっけない幕切れだった----」などと物事の終わりを言う言葉として使います。
また、「幕の内弁当」というのも歌舞伎から出た言葉です。幕の内(開幕中)に食べるからだとか、幕と幕の間(これを幕間 --- まくあい、と言いますが)に食べるからだとか諸説はありますが、歌舞伎から出た言葉であることは間違いなさそうです。

物事がひっきりなしに続くことを「のべつまくなし」と言いますが、これも歌舞伎で、幕を引かず(つまり休みなく)続けざまに演じられる長丁場の芝居を指す言葉で、「のべつ幕無し」から転じた言葉です。

なお、「定式幕」の3色のうち「柿」は、市川団十郎家(成田屋)の家の色です。のちほど出てまいりますが、歌舞伎十八番(成田屋の家の芸)などで役者や後見が、この「柿」色の素襖(すおう)や「柿」色の裃を着て登場することが多いのは家の色だからです。

ついでに申し上げますと、中村歌右衛門家(成駒屋)の家の色は「芝翫茶」(しかんちゃ、やや黄色ばんだ挽茶色のグリーン)、尾上菊五郎家(音羽屋)では「梅幸茶」(ばいこうちゃ、銅地金に付着する緑青に近いグリーン)ということになっています。

(注)萌葱(もえぎ) 葱(ねぎ)の萌え出る色を連想させる青と黄色の中間の色。「萌黄(もえぎ)」とも書く。
 
   
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