かぶきのおはなし  
  24.出世魚  
 

魚のなかには、幼魚の時代から段々に成長するにしたがって、名前を変えていくものがあります。これを俗に「出世魚」などと呼んだりします。

出世魚
 
 
その代表例が、照焼きにして食べると美味しい「鰤(ぶり)」です。

東京地方では、まず幼魚の名が「ワカシ」。次に「イナダ」。それから「ワラサ」ときて最後に「ブリ」となります。(大阪地方では、「ツバス」「ハマチ」「メジロ」「ブリ」の順)

歌舞伎役者の名前も、あたかも出世魚と同じように、芸の成長に応じて、段々と名前が変わっていきます。そして、この場合、ある名前が別の人間によって代々継承されるとき、相続される名前のことをとくに、「名跡(みょうせき)」と言います。

また、役者が先祖、父兄、師匠などの名前を継ぐことを、「襲名(しゅうめい)」と言います。家の芸の伝承ということを重んじる、歌舞伎の世界では、「襲名」は、芸道だけでなく人間的にも成長が認められてこそ許される訳で、役者にとって極めて重要な人生の節目であり、盛大な「襲名披露興行」が打たれるのが常です。

それでは出世魚を、成駒屋の例でみてみましょう。
最初は、「児太郎(こたろう)」、次が「福助(ふくすけ)」、その次が「芝翫(しかん)」、そして最後が「歌右衛門(うたえもん)」となります。

これが成田屋では、「新之助」→「海老蔵(えびぞう)」→「団十郎」です。

また音羽屋では、「丑之助(うしのすけ)」→「菊之助」→「菊五郎」となります。音羽屋では「菊五郎」が最高名ですが、「菊五郎」を後進に譲った後に俳名の「梅幸(ばいこう)」の名前で舞台に立つ場合もあります。もともとは、俳諧を嗜んだことからもっている名前(俳名)が、一種の隠居名的に使われているという感じでしょうか。前述の成駒屋の「芝翫」も元は俳名です。

役者が、ひとつ上の名跡を継いだ時、どことなく貫禄がつき、以前にもまして大きく見えるから不思議です。サラリーマンの世界でも、地位(ポスト)が人間を作るなどとよくいわれますが、歌舞伎の世界でも、名跡が芸を作るというのは確かに認められるところです。
 
   
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